作成日:
2025/10/11
更新日:
2025/11/20
北川進教授、2025年ノーベル化学賞を受賞
2025年のノーベル化学賞は、京都大学 高等研究院の北川進教授、オーストラリアのロブソン教授、アメリカのオマー・ヤギー教授の3名に授与されました。
受賞理由は、金属有機構造体(MOF: Metal–Organic Frameworks)の開発とその応用研究です。
北川教授は1990年代以降、金属イオンと有機分子を組み合わせて作られる「多孔性配位高分子(MOF)」の機能面を実証し、実用化への足掛かりを築くことで、それまで“密な結晶”と考えられていた固体に「自在に空間(孔)を設計する」という新しい概念をもたらしました。
孔(あな)の大きさを自在に変えることで、気体を溜め込んだり、そこから気体を取り出したりすることが可能となることから、MOFは「呼吸する固体」と呼ばれるようになります。この発見は、エネルギー、環境、医薬など、さまざまな分野の材料開発を一変させたといわれています。
日本人がノーベル化学賞を受賞するのは、2019年の吉野彰博士(リチウムイオン電池)以来6年ぶりの快挙です。
教科書・学習指導要領・入試への影響
ここで気になるのが、教科書や学習指導要領の改訂、そして2026年度入試への影響です。
近年、ノーベル化学賞のテーマは翌年度以降の入試に反映される傾向があります。
たとえば、2019年に吉野博士が受賞した際には、「電池反応」や「酸化還元反応」の出題が急増。
また、2010年のグラフェン(炭素構造)に関する受賞後も、「結晶構造」や「共有結合」の単元で発展内容として多くの大学で取り上げられました。
今回の北川教授の研究も、結合・構造・物質の性質を横断するテーマであり、今後の教科書では、化学基礎範囲の「物質の構成」、化学範囲の「固体の構造」などの範囲で記述が拡充される可能性があります。
特にMOFは、化学結合・化学結晶・物質の設計といった総合的な内容に関わるため、高校範囲で考察可能な設定に落とし込み、共通テストの総合問題や、国公立・私立理系入試の考察型問題で問われる可能性も高いと考えられます。このような出題方法は、昨今の思考力重視の風潮にも合致するでしょう。
金属有機構造体(MOF)の理解と化学の学習・指導対策
このように、理系化学では最新研究からのアップデートが頻繫にあったり、特定分野の難易度・扱い範囲が急激に上がったりと、指導が難しいという課題があります。
この記事では、今回のノーベル賞の「金属有機構造体(MOF)」についてわかりやすく解説し、今年度入試への対策や、化学のおすすめの勉強方法・指導方法について詳しく解説します。
1. 金属有機構造体(MOF)とは?
金属有機構造体(MOF)とは金属イオン(または金属クラスター)と有機分子(配位子)が結びついてできた網目状の結晶構造です。
分子の間に多数の“孔(あな)”をもつ多孔性材料であるため、内部にガスや液体の分子を取り込んだり、反応の場として利用したりできます。
構造のイメージとしては、
金属イオン:全体を支える「結び目」
有機分子:結び目をつなぐ「棒状パーツ」
が規則正しくつながり、三次元の“分子レベルのネットワーク”をつくっています。
これらの組み合わせを変えることで、さまざまな孔(あな)の大きさにすることができ、特定の物質の吸着・貯蔵に活用できるのです。
この“空間をデザインする化学”という発想が、従来の「固体=密な構造」という常識を覆しました。
MOFは、高い表面積・選択的吸着・構造の可変性といった特性をもち、「呼吸する固体」として、さまざまな分野への応用が期待されています。
2. 応用分野:環境から医療まで
北川教授のMOF研究は、基礎化学の枠を超えて、環境問題などのホットな社会課題の解決にも直結しています。それが、今回のノーベル賞の受賞にも繋がりました。
代表的な応用例をいくつか挙げましょう。
二酸化炭素の回収・固定化
MOFは、特定の分子を選択的に吸着できるため、CO₂を効率よく回収・再利用する技術に利用されています。水素やメタンなどのガス貯蔵
孔の大きさを分子レベルで調整することで、高密度なエネルギー貯蔵材料として注目されています。毒性ガスを安全に吸蔵させることも可能になります。水質・空気浄化
有害物質を分離・除去するフィルターとしての応用研究が進んでいます。医療・薬物送達
薬の放出速度を制御できる「ドラッグデリバリー」材料としても実験段階にあります。
このように、MOFは化学の基礎概念から応用技術までをつなぐ架け橋であり、まさに「化学の社会的価値」を示す教材としても非常に優れています。
3. なぜすごいのか
MOFのすごさは、「分子レベルで自在に設計できる多孔性結晶」を初めて実現した点にあります。
これまで使われてきた活性炭やゼオライトは、自然の構造をそのまま利用する“受け身の材料”でした。
それに対してMOFは、金属と有機分子の組み合わせを変えることで、孔の形・大きさ・性質を自由に変えられるという、まさに“設計する化学”です。
この発想転換が、環境化学・触媒化学・材料科学といった広い分野の研究に波及。「物質を組み合わせて新しい機能をつくる」という、現代化学の象徴的な考え方になりました。
出典一覧
京都大学 高等研究院 北川進教授 プロフィール(KUIAS公式サイト)
NobelPrize.org “The Nobel Prize in Chemistry 2025”
Science Portal (2025年10月8日): 「ノーベル化学賞に京大・北川氏ら3氏 気体を貯蔵できる金属有機構造体「MOF」を開発」
Chem -Station (2025年10月8日): 「2025年ノーベル化学賞は、「新しいタイプの結晶構造ーMOFの開発」へ」
4. 金属有機構造体(MOF)は学習指導要領で問われうるか?
文部科学省の高等学校学習指導要領(化学・化学基礎)では、化学基礎範囲で「物質の構成」(化学結合の種類など)、化学範囲で「固体の構造」(固体の結晶格子の概念)を扱います。
これらの学習内容をふまえれば、十分に金属有機構造体(MOF)について理解することが可能です。MOF自体は、これらの範囲の教科書本文にまだ登場していませんが、これらの基礎内容を応用して説明・考察できるテーマとして、入試でも出題しやすい題材だと考えられます。
5. 【例題付き】共通テスト~難関大まで:想定される出題形式
では、実際に出題される場合、どういった問われ方がなされる可能性があるのか、例題を用いて紹介します。
※本記事では、金属有機構造体(MOF)に関する例題を 2問のみ抜粋 して紹介しています。
5-1. 【基礎理解型】MOFの構造と吸着のしくみを問う
出題例(共通テスト形式):
問:次の文章を読み、下の問いに答えなさい。
2025年のノーベル化学賞の受賞テーマとなった金属有機構造体(MOF)は、金属イオンと有機化合物が結合してできた多孔性の結晶構造をもつ錯体である。
その内部には多くの「孔(あな)」があり、自由に大きさを変えることで目的の気体分子などを吸着することができる。
(1)MOFにおいて、金属イオンと有機化合物はどのような結合でつながっていると考えられるか。最も適切なものを、次の中から選べ。
① 共有結合
② イオン結合
③ 配位結合
④ 水素結合
(2)MOFによって将来的に可能になると期待されていることとして、最も適切なものを、次の中から選べ。
① 人工光合成による反物質生成
② 二酸化炭素の効率的な除去
③ 無重力下でのタンパク質合成の高速化
④ 常温での超伝導体の実現
→ 正解:③/②
解説:
(1)MOFは、金属イオン(電子の受け手)と有機化合物(電子の供与体)が配位結合によってつながった網目状構造を持っています。 この配位結合により、規則的な空間が形成され、多孔性が生まれます。問題文中の「錯体」という言葉もヒントになるでしょう。
(2)MOFの孔は、気体分子を物理的に「吸着」できる性質をもっています。 吸着とは、物質の表面や内部に別の分子が取り込まれる現象であり、化学反応ではありません。この性質を利用して、二酸化炭素を効率的に捕集・回収する研究が進んでいます。
5-2. 【実験考察型】MOFの吸着特性を考察する
出題例(上位私大・地方旧帝大以上レベル):
2025年のノーベル化学賞の受賞テーマとなった金属有機構造体(MOF)は、金属イオンと有機化合物が結合してできた多孔性の結晶構造をもつ物質である。
ある研究グループは、異なる金属イオンと有機化合物の組み合わせを用いた2種類のMOF(AとB)を作成したところ、それぞれの孔径は以下の通りであった。
MOF A の孔径:平均 0.7 nm
MOF B の孔径:平均 1.2 nm
これらのMOFについて、二酸化炭素の吸着量を測定したところ、MOF A の方が吸着効率が高いことがわかった。以下の問いに答えよ。
(1)孔径の大きい MOF B の方が、吸着効率が悪かった理由として考えられることを述べよ。
(2)MOF A よりもさらに孔径の小さい MOF C を作り、二酸化炭素の吸着量を測定したところ、ほとんど吸着されなかった。その理由として考えられることを述べよ。
解答例:
(1)CO₂分子の大きさに対して、Bの孔径が大きすぎたことにより、CO₂分子と孔(あな)の壁の距離が離れてしまい、分子間力による相互作用が弱くなったため。
(2)MOF Cの孔径が、CO₂分子の大きさに比べて小さかったことにより、孔にCO₂分子が入り込めなかったため。
詳細解説:
MOFは、金属イオンと有機分子の組み合わせによって、構造(孔の大きさ・形・極性)を自在に設計できます。
CO₂のような分子の吸着効率は、孔径が分子の大きさと“適度に一致”する場合に最も高くなります。
今回の問題のように、大きすぎる孔では、壁からの距離が離れるので分子間力が弱まり、分子がすぐに離れてしまいますし、逆に小さすぎると分子が入れません。
また、有機配位子を変えることでも「孔の性質(疎水性・親水性)」や「分子との相互作用」を調整できます。
このように、狙った分子だけを分離できるMOFの性質のことを、分子ふるい効果と呼びます。これが、MOFを“自在に設計できる材料”たらしめる最大の特徴です。
6. 学習・指導での扱い方
MOFは現行教科書の本文範囲ではないため、「発展内容」または「最新研究紹介」として扱うのが適切です。
ただし、学習テーマとしては非常に良質で、学習範囲内の
配位結合や結晶格子
科学と社会の接点(環境・エネルギー問題)
などをつなげて学べるトピックであり、理論化学と無機化学の融合問題としても入試でも出題しやすいと考えられます。
上で紹介した2問についても、背景の解説を与えることにより、どちらも 教科書範囲+1歩先の応用 に収まるよう設計されています。
レベル①は共通テスト形式で「知識整理+社会への応用」を、 レベル②は大学二次・医薬系で頻出の「構造・物性考察」を想定しています。
このように、入試でも出題されうるため、ぜひ触れておくようにしましょう。
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執筆者
株式会社okke代表。ラ・サール中高、東京大学工学部計数工学科卒。
財務省に勤務したのち、アメリカ・UCLAでMBAを取得し、能動的に学ぶ人を社会に増やすべく、okkeを起業。
Dr.okkeのコンテンツを作っています。




